4月に供用開始した国営大蘇ダム(熊本県産山村)で、再び想定を大きく上回る水漏れが判明した。九州農政局の安全性評価委員会は、巨費を投じた漏水対策工事に「今のところ異常は見られない」としたが、原因究明の時期は見通せない。施設の維持管理を担う地元自治体からは「不完全なダムなら、引き受けられない」と反発の声が上がる。
「次回はもう少し説明できるのではないか」。11日、熊本市のホテルで開かれた評価委。委員長の向後雄二東京農工大名誉教授は終了後、ダム周辺の地下水位などのデータを細かく整理する必要性を強調し、水漏れの原因には言及しなかった。
国の対策工事は専門家の助言も得て、2013~19年度に実施。水が常時たまるダム堤から1キロ上流までは、壁面に厚さ10センチのコンクリートを吹き付け、底部にセメントを混ぜた粘土質の改良土など(厚さ2メートル)を敷いた。ダム堤から1~1・3キロ部分は水位の増減で流れが発生するため、壁面と底部をいずれも厚さ10センチのコンクリートで覆った。
さらに上流の500メートル部分は、水位の低下で露出して補修しやすいため、壁面は耐久性で劣るモルタル吹き付け(厚さ8センチ)を採用。底部は厚さ30センチの改良土と遮水シートで対策した。
施工面積は貯水池の8割に当たる25万3千平方メートル。工事費は計126億円で、ダム事業全体の2割近くに上った。九州農政局は「区間の特性に応じて割高なコンクリートをなるべく減らした。コンクリートと比べて遮水能力が低い改良土の面積も広く、浸透は完全には防げない」と説明。対策はあくまで「浸透の抑制」と強調する。
19年度の試験湛水[たんすい]では、最大で1日2万8千トンの浸透が発生したものの、9月に目安とした2千トン程度に落ち着いた。このため国は「対策の効果が確認された」として供用を開始したが、現在の浸透量は約1万5千トンから減らない事態が続く。
同局は「ダム周辺に地下水が少ない時は浸透量が増え、土壌に水が行き渡ると浸透は落ち着く」とみるが、明確な因果関係は分かっていない。
漏水問題の再燃に受益地の自治体が神経をとがらす背景には、ダムの維持コストがかさむことへの警戒感がある。供用開始前に阿蘇市と産山村、大分県竹田市は、国の直轄管理を要望したが、国は「規模が小さく要件を満たさない」と認めなかった。ただ、ダムの監視については国が引き受け、再度補修が必要になった時は「地元負担の軽減を検討する」との“条件”で、2市1村が矛を収めた経緯がある。
国は「管理は引き続き地元」との考えだ。しかし、産山村の市原正文村長は「ダムが完全な状態になるまで、維持管理は国の責任でやってほしい」と訴える。阿蘇市の佐藤義興市長は「追加の費用負担が生じても応じられない」とけん制しており、県議会も「地元の追加負担は認めない」とする決議を委員会で可決し、歩調を合わせる。(内田裕之、東誉晃)
◆国「利水に影響ない」
国営大蘇ダムは、阿蘇市と産山村、大分県竹田市の計1865ヘクタールに農業用水を供給する利水事業を目的に建設された。水漏れが再び判明したが、九州農政局は「当面、利水への影響はない」としている。
受益地の2市1村と大分側の3土地改良区でつくる大野川上流地域維持管理協議会によると、冬は水を使う作物が少なく、現在は1日千トン前後を使用している。
最近は雨も少なくダムへの流入がほとんどない状態で、7日時点の貯水量は約197万トン(貯水率46%)。ただ、大蘇ダムは流域以外の山鹿川(産山村)から導水路で年間180万トンまで取水できる取り決めもある。貯水量が足りない場合は、こちらで補える仕組みだ。
稲作が本格化する5月ごろには、多い日で1日約3万トンが必要という。竹田市農林整備課は「国は大丈夫というが、浸透量がさらに増える恐れもある。少雨の時も心配だ」と話している。(内田裕之)
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December 14, 2020 at 06:53AM
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